たいせつにします プライバシー 17002231(02)

 

2018.5.21

前人未到の挑戦 ~「熱融通」の話

2016年2月、横浜市鶴見区で開始されたあるエネルギーサービスが世間を騒がせた。関係者らが注目したのは、隣接する2工場間で「エネルギーのやりとり(融通)」を行うという型破りの発想だ。前例のないこの挑戦の、実現までの軌跡をたどる。

プレミアムカスタマー営業部
小林 和彦

エンジニアリング部
渡辺 博

小林 和彦(こばやし かずひこ)
産業用工場の運営をエネルギー面からサポート。本プロジェクトでは営業担当として全体を統括した

渡辺 博(わたなべ ひろし)
技術者としてコージェネレーション関係の施工に広く携わる。本プロジェクトでは技術をとりまとめたほか、各種交渉にも奔走した

所属はインタビュー当時のものです

<01回>

前人未到の挑戦~「熱融通」の話【その1/全3回】

ふと思いついた“秘策”

その日、小林は重い心持ちで客先を訪れていた。2006年から日産自動車横浜工場のエネルギー・サービスを担当していたが、ガスエンジンコージェネレーション・システム(以下、コージェネ)1基が老朽化により交換の時期を迎えていた。単純に考えれば同レベルのエンジンを更新すればいい。が、「震災以降、日産自動車からは、非常時の電源確保の重要性から、自家発電をより大規模にしたいとご要望をいただいていました。同レベルの更新ではご希望に合わないし、熱効率とコストメリットの点でも私自身おすすめしかねました」(小林)

そういった状況から大型コージェネの導入が最良の策と思われた。けれど日産には、コージェネ発電時の排熱から生成される蒸気の行き場がない。蒸気を有効利用できなければ大型コージェネを稼働させてもエネルギー供給の無駄が出てしまう。

小林の脳裏には、ひとつだけ方法が思い浮かんでいた。隣接するJ-オイルミルズは昨年まで小林が担当していた工場である。あそこなら、と思った。食用油の精製には大量の蒸気が必要で、J-オイルミルズでは蒸気の安定確保がいつも重要だったのである。

フィンランド・バルチラ社のコージェネエンジン。発電容量9,000kw級で蒸気(約200度)の供給能力は5t/h。小林は、排熱の問題をクリアできれば日産自動車では高効率エンジンCGSを最大限有効活用できると考えた(本プロジェクトでは最終的にこのエンジンを導入している)

前例はない。けれど技術はあった。

「排熱から生まれる蒸気をJ-オイルミルズに供給する」という小林の提案に、日産自動車は一定の興味は示してくれた。とはいうものの、2工場の間には公道が通り、上には首都高が走っている。蒸気を渡すための配管をどう通すのか。また、たとえ策が見つかったとしても前例のない難工事は可能なのか。「方法はこれしかない。けれど、この道を進むと大変なことになる」。小林の心が重かったのはそんな理由からだった。
けれども、この計画を実現することができれば、確実に2工場のエネルギーの最適化に貢献できる。日産自動車は排熱を気にせずにコージェネで発電できるし、J-オイルミルズは生産に欠かせない蒸気を安価で使うことができる。

「公道に蒸気配管を通したい」。本社の大会議室に10数名の技術者が集まった席で、小林は思い切って本プロジェクトの立案に言及した。内心では〝笑われるんだろうなあ〟とびくびくしていたのである。ところが―。
「私が話しているそばから、だったらここを…とか、いやそこは違う、と会話が聞こえてきました。配管を通すための策の検討がすでに始まっていたのです」(小林)

この会議に参加して、そのときからプロジェクトの一員となった渡辺も、始まりの瞬間を覚えている。「〝そんなことできるのかなあ〟と誰もが感じたと思います。でもすぐに〝やらなくちゃ〟という雰囲気に切り替わりましたね」(渡辺)

それからわずか1週間後。営業、技術、メンテナンス…各部署が参加する大規模なプロジェクトチームが発足。小林の計画は新事業として正式に動きだすことになり、型破りの一大プロジェクトに、小林や渡辺の奔走が始まった。

<つづく>

ページトップ