新宿地域冷暖房 50周年記念式典シンポジウム ー2021年5月18日 京王プラザホテルー

新宿地域冷暖房 Since1971 50th Anniversary

新宿地冷供給開始50周年を迎え、地域冷暖房をご利用いただいているお客さま、地域冷暖房事業の運営にご協力いただいている協力企業の皆様への感謝の意を込めて、新宿地域冷暖房センター50周年記念式典シンポジウムを開催いたしました。

Program

主催者挨拶・
プレゼンテーション

東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社

代表取締役社長 小西 康弘
基調講演

芝浦工業大学 建築学部 教授

村上 公哉 様
特別講演

建築家

隈 研吾 様

主催者挨拶・プレゼンテーション「これまでの50年を、次の50年へ ~サステナブルな新宿を、これからも皆様とともに~」東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社 代表取締役社長 小西康弘

新宿地域冷暖房センターの歴史

当社は1971年の操業開始から50年、超高層ビル街の先駆けとなった西新宿エリアに、安定的かつ環境負荷の少ない熱エネルギーを供給し続けて参りました。50年の間に、設備増強・更新を行いながら世界最大級の地域冷暖房プラントに発展し、現在に至っています。
1960年代後半、高度経済成長による大気汚染が深刻な社会問題となり、その解決に向けて新宿地域冷暖房センターを開業。今からちょうど50年前、1971年4月のことです。
開業と同時に、京王プラザホテル様に熱供給を開始しました。
90年には、都庁の移転などに伴う、需要の増加に伴い、プラントを現在の場所に移設し、ガスタービンCGSや蒸気駆動復水タービンターボ冷凍機など、徹底的にエネルギーをカスケード利用する、最新鋭の省エネ設備を導入しました。
2011年3月11日に発生した東日本大震災を契機として、災害時のBCP対策・レジリエンスの向上が最重要事項となり、2012年には、東京都庁舎様へ電力自営線による電力供給を開始しました。
2013年には、隣接する西新宿一丁目地区への熱融通を開始し両エリアトータルでの省エネ、省CO2を実現。2018年には世界最高効率のガスエンジンCGSを導入し、さらなるCO2排出量の削減とともに、停電時も一定量の熱供給の継続が可能になりました。
皆さまにご愛顧いただき、この50年で、供給先のお客さまは22カ所、対象延床面積は227万m2と開業時の約20倍の規模に成長しました。

サステナブルでレジリエンスな街づくりを

東京都は本年3月に豊かさあふれる持続可能な都市を作るための「未来の東京戦略」を策定し、「ゼロエミッション東京戦略」では、2050年にCO2排出実質ゼロを掲げています。
一方、西新宿エリアでは、地元町会・新宿副都心エリア環境改善委員会と新宿区が「西新宿まちづくり指針」を策定しており、西新宿は今まさに、次の50年に向けて、新たなまちづくりの入り口に立っていると言えます。
西新宿まちづくり指針では、新宿イノベーションパークをテーマに、「新たなライフスタイルやビジネスの創造・発信」「多様な魅力と豊かな交流の創出」の実現をめざすとしており、エネルギー分野では、スマートエネルギー、水素、コージェネレーション、エネルギーマネジメントといった検討が進められています。
東京ガスグループは、このようなニーズに対して、アドバンストスマートエネルギーエネットワーク(アドスマ)、を推進し、QOW・QOLの向上を目指すとともに、CO2ネット・ゼロの実現に向けて挑戦し、東京ガスグループがエリアマネジメントへ参画することを通じて、総合的にBCPをサポートするBCPアズアサービスを提供するなど、西新宿地区のまちづくりに様々な形で貢献して参ります。

基調講演「これからの街づくりと地域エネルギー事業の展望、都市のシステムデザインの観点から」芝浦工業大学 建築学部 教授 村上公哉先生

街の競争力、カギは「三層構造」への移行

高度経済成長期を背景とした『すべての街が高まる時代』は終わり、現在は『街は選択される時代』だと言えます。選ばれる街になるためには、街の魅力や価値等の競争力を高めていくことが不可欠です。街の魅力は安全性や保健性、利便性、快適性、環境配慮などで構成され、それらによって生み出される“にぎわい”が人や企業を呼び寄せて更なる街の魅力へとつながっていきます。
街は、行政の『法定都市計画』により一定レベルの住環境の質を形成されますが、一定レベル以上の質が競争力になります。これを生み出すのが、街それぞれのステークホルダーが住環境の質の保全・改善のために協働して自発的に行う『街づくり』です。
これを都市システムデザインの観点から考察したのが、『20世紀型の二層構造から、21世紀型の三層構造への移行』です。簡単に言うと二層構造は「公」「私」の二段構えで、三層構造は「公」と「私」とそれをつなぐ「共」の三段構えになります。たとえば二層構造では、「私」は税金を支払うことで「公」から教育・福祉・防災・インフラ整備などの行政サービスを享受します。これが三層構造になると、「共」(町会・自治会、社会福祉協議会やまちづくり協議会など)によって、行政サービスだけでは得られにくい、街全体の公益的な価値が得られるようになります。

街の競争力、カギは
脱炭素とエネルギーレジリエンス

この視点をエネルギーサービスに置き換えた場合、二層構造では、「私」である建物は「公」から電気や都市ガスなどが供給され熱源設備により健康・快適な居住・オフィス環境がもたされます。一方、三層構造の場合、「共」を担うのが『地域冷暖房』です。個々の建物が持つ熱源設備を集約化し、さらに未利用エネルギー等を有効活用することで効率的な冷温や蒸気、省エネなどのサービスを「私」に供給することができます。
今後、街が価値を高める上でキーワードとなる「脱炭素」や「エネルギーレジリエンス」などの点においても、地域冷暖房は必須の要素となります。
実は東京都も「世界中から選ばれる都市づくり」を掲げており、地域ぐるみのエネルギー有効活用は大きな戦略方針の一つに掲げられています。23区内を見てみると、オフィス面積が集積したところは「地域冷暖房」が重要なエネルギーインフラとして整備されており、1998年から2015年にかけて単位延べ面積あたりの冷暖房起源CO2排出量が約35%減少しています。また地域冷暖房と連携するコージェネレーション(廃熱利用システム)の導入も、都市の脱炭素化と強靱化に貢献しているといえます。

地域エネルギー事業のこれから

街づくりにおける地域冷暖房を始めとするエネルギーシステムの導入は、英国ロンドンの「グリーン・スマート・コミュニティー・インテグレイテッド・エネルギー・システム(GreenSCIES)」など世界の街づくりにおいても注目されており、選ばれる街、都市となるためにこうした環境配慮は必須となりつつあります。
「共」の仕組みは、「私」のみでは対応がむずかしい地域の課題に対してみんなで取り組む、あるいは「私」で取り組むよりもみんなで取り組んだほうがメリットが大きいといった考え方をベースとしながら構築されていくわけです。そして、地域冷暖房は、まさしく地域のシステムデザインにおいて都市のエネルギーシステムにおいて「共」の役割を担っています。
そして、その進化は、4つのアドバンス形で示すことができます。ひとつは複数の「共」同士が連携して、お互いのサービスのメリットを大きくしていくもの。次に既存の「共」に対して、新たに「私」が加わるというもの。あるいは、既存の「共」のサービスメニューに、新たな「私」へのサービスが追加されるというものもあります。また、最近あるいは今後では「私」からのデータ提供を受けるかたちで「共」が地域におけるデータプラットフォームを構築し、そのデータを分析したりAIなどで最適化することで、より一層、地域サービスの付加価値を高めるというアドバンス形もあります。
それらの具体例としては、新宿地域冷暖房センターと西新宿との熱融通や、赤坂・六本木アークヒルズ(東京都港区)での地域冷暖房の拡張、また日本橋室町エリアの熱電一体供給などがあります。また新宿新都心においては、東日本大震災以降の2012年より重要拠点である都庁に、3,000キロワットの電力を供給しています。従来は熱の供給だけでしたが、震災を機にエネルギーレジリエンスの要求が高まる中で、新たに電力を供給するサービスが加わった代表事例だと言えます。

街づくりのコーディネイターとして

これからの地域エネルギーシステムにおいて、「共」のデザインをどのように考えていけばよいのか。ひとつには、「公」と「私」の変化を見すえた「共」の柔軟な対応が、今後の地域エネルギー事業が進展していく上で重要なファクターになると考えています。
まず、「公」の変化についてです。再エネ先進国のデンマークでは、「公」の扱うエネルギーリソースが化石燃料から風力発電やバイオマスといった再エネ由来に移行してきました。これによって変動電力の割合が増えたため、コージェネレーションシステムやヒートポンプと蓄熱槽などにより電力の需給調整機能を「共」が担っているのが特徴です。
我が国も2050年に向けて脱炭素を実現するため、今までの「公」が提供する電力、燃料が大きく変化していくことが予想されます。風力発電や太陽光発電、水素発電など変化するエネルギーリソースを想定しながら、需要家に対して安定的に熱や電気を高効率に供給していくシステムデザインを構築していく必要があります。
次に「私」の変化についてです。これまで地域エネルギーシステムの導入は、主要駅周辺および都心部の業商施設などが中心の街でしたが、今後はこれらに住宅を含む街が現れると考えられます。
これからの時代は、地域エネルギー事業が単なるエネルギーサービスにとどまらず、「公」や「私」の変化に対応しながら、いかに街づくりにおける「共」をシステムデザインしていけるかどうか。それに必要なさまざまなステークホルダーの意見を調整しながら「共」の仕組みを構築し、街づくりのコーディネーターとして事業シーズを拡充していくチャンスではないかと思います。

特別講演「これからの東京、これからの街づくり」建築家 隈研吾氏

最先端の「洋」から、日本文化の「和」へ

わたしが最初に都市づくりに関わったのは、2007年の『東京ミッドタウン』です。高度成長期の産業資本主義を経て、世界中のお金が流れ込む金融資本主義の中で都市がつくられるようになった時代です。このときに「文化」という新たなテーマが生まれ、文化とビジネスをどのように繋ぐかが建築全体の大きなテーマでした。「環境」もキーワードでしたが、当時は地球温暖化というより、景観や緑という意味合いが強かったように思います。
2012年には、日本の象徴ともいえる浅草雷門前の場所に『浅草文化観光センター』を建築。世界最先端を目指す「洋」ではなく、日本発の文化「和」を打ち出す意識が2000年代になって誕生します。環境面では地球温暖化問題が表面化し、「木」が主役の建物が出てきます。東京はもともと“木の都市”でしたが、20世紀にコンクリート都市になり、2010年あたりから再び木の持つ温かさが東京には必要だと気づきました。そこから世界にはない東京らしさを作ろうという気運が盛り上がります。並行して木造建築の技術が向上し、木の不燃化や耐久性を高める技術も世界各地で生まれました。

人と街を建築がつなぐ

2013年に建築した5代目『歌舞伎座』は、まさに「和×木」の時代を象徴しています。都市のシンボルとしてだけでなく、「街とつなぐ」という新たな考え方が主流に。人の流れを考えながら、建物を垂直的にも水平的にも都市につなげるという意識が出てきました。
2015年に建築した『豊島区役所』では、全体のテーマが地球温暖化で、外装には太陽光パネルと緑化パネル、木のパネルを採用。ここで新たなテーマとして登場したのが「コミュニティ」です。周囲のコミュニティにどう使ってもらうかが、建築計画の主体となりました。長岡に建築した市役所でも、コミュニティとの関わり方をテーマにしました。長岡では一般的な広場ではなく、より生活感のある「土間」的な空間を持つ市役所を提案。結果として、地元の子どもたちが宿題をするために市役所へやって来るというライフスタイルが生まれ、年間100万人以上の人が集まる場所になりました。

「コミュニティ」が基本となる街づくり

ヨーロッパでも同じように、環境、地域、コミュニティという大きな波が起きており、私も2010年頃から参加する機会が増えてきました。
フランスの街・ブザンソンでは川を中心に自然と街をつなぎ、マルセイユでは倉庫と工場だけの港町にアーティストを呼び込むことで、人が訪れる街づくりを提案しました。パリのあるプロジェクトではマスタープランをオランダの建築家が担い、その一部を私が担当。古い建物を残しながら、コミュニティをテーマに建物を再生しました。木でつくった折り紙のような屋根をのせた教室は、パリの市長さんも非常に気に入ってくれました。その他にも、欧米諸国の建築に携わっていますが、どれも自然や文化をはじめ、コミュニティとの繋がりを大切にしたものばかり。木は地元のものを使うなど、環境に配慮していくことも世界の主流となっています。
最後にオーストラリアのシドニーのプロジェクトをご紹介します。ダーリングハーバーという街なのですが、近年高層マンションが建ち並び、もともとあったウォーカブルな街の姿が失われてしまうという危惧が地元の人々の中にありました。市民にヒアリングした結果、彼らが望んでいるのはショッピングセンターではなく、フードカーなどが集まるマーケットだと。保育園や市民図書館も必要ということで、これらすべてをまとめる構成を考えた結果、木を曲げて作ったやさしく柔らかな印象の建物になりました。建ち並ぶマンション群の中に、やさしい憩いの空間が必要だったということで、現代社会を象徴する建築だったような気がしています。
この50年間、世の中が変貌していく中で私は幸いにもその目撃者としてプロジェクトに参加できました。ある種、時代の証人的な役割を果たせたのではないかと思っています。